「都市格について 大阪を考える(大西正文著 創元社)」からカジノ誘致を考える

「都市格について大阪を考える(大西正文著 創元社)」からカジノ誘致を 考える リレートーク

「都市格について 大阪を考える(大西正文著 創元社)」からカジノ誘致を考える

本書「都市格について 大阪を考える」は大阪ガスの会長であり大阪商工会議所の会頭を勤めた大西正文(1924年12月11日 – 2014年10月15日)が、大阪が衰退し都市としての誇りを失いかけていた時代に発刊した名著である。

大西は人に人格があるように会社には社格、都市には都市格が必要と伝えているが、この都市格というフレーズは戦前の大阪府知事中川望がはじめて使ったものらしい。関西では、経済学者で滋賀大学学長を務めた宮本憲一氏や関西文化に詳しい木津川計氏なども同様のスタンスで、都市格の必要性を述べている。

大西は、先ず、紀元前に経済的に栄えた通商国「カルタゴ」がローマとの戦いに敗れ滅亡しているが、この原因に「富の蓄積だけに血道をあげて、政治的な、知的な、倫理的な進歩を目指そうと何の努力もしなかった」ことと「自由な精神を育み他地域から共感を得る文明の創造されなかった」ことを史家の評価として伝えている。

大西は、これからは、発想を転換して、現在を起点として未来を考えるのではなく、未来を起点に何をなすべきかを考えることが必要と力説し、産・官・学・市民が真に横の協力を強め、他の都市との「違いを構築する」が必要であるとしている。ここに大西の考える「都市格」がある。

また、大阪の都市格の向上には精神的な糧を供給する場所(例えば図書館)が必要とも力説し、都市にある美術館、図書館、レストランを市民が使える居間に例え、歌舞伎や文楽は大阪の誇る財産としている。「文楽は面白くない」と発言し予算を削減してきた後の為政者とは雲泥の差である。
さらに、高い都市格の実現には、都市間連携や下からの盛り上がりが必要とし、効率至上主義では都市の潤いが損なわれ人が住み、快適な状態ではなくなってきたと経済至上主義にも警鐘を鳴らしている。

大西は、関西は一つであることや、誰もが住みたくなる居住環境、自然を残す、取り戻すことの必要性、「都市」景観は公共の財産であること、外国人や高齢者にやさしい都市を創ることなどを力説している。この志は大阪商工会議所の大阪ガス出身の尾崎現会頭にも受け継がれているのであろうか。当初、尾崎氏は大阪のカジノ誘致に賛同してなかった。

都市格とカジノは同居できない。孔子は「近者説遠者来」(住んでいる者が喜ぶようなまちには、遠くから来訪者がたくさん来て、まちが益々、栄えるという意味)という言葉を残している。都市格を魅力あるまちづくりで高めていくことが大阪の都市課題である。

ところで、天下の台所といわれた大坂を発地とする住友の事業精神の源流をたどると、それはおよそ350年の昔、初代・ 住友政友が遺した『文殊院旨意書』にまで遡ることになると住友グループ広報委員会のホームページに記載されている。
政友は晩年、庵を結んで半僧半俗の暮らしをしており、家人や彼を慕う門徒衆に、商人の心得や人としての生き方を書簡などの形で教え諭している。5カ条からなる『文殊院旨意書』は、商人の心得を分かりやすく説いており、住友家の家訓として受け継がれている。
この教えにある「確実を旨とし浮利に趨(はし)らず」、すなわち、目先の利益を追わず、信用を重んじ確実を旨とする経営姿勢は、住友の事業精神の真髄のようである。
しかし、住友系と言われるリーガロイヤルホテルの蔭山秀一社長はIRが関西経済にとって必要であり、このIR施設の中で収益性の高いカジノが必要と力説している。(日経9月25日夕刊・関西)世界各位のカジノの実態を調査した学識者によるとカジノ施設の大半は経済に寄与していないが、例え、寄与するとしても、目的のために浮利を 追うということに住友家初代・ 住友政友はどのように見ているのであろうか。
故人ではあるが大西正文と対談させたかった。

2018・9.25 日経 夕刊 (もっと関西)

蔭山社長の記事に記載されたコメント

「カジノを含めたIRの概念そのものを、先ず地元に理解してもらう必要はあるだろう。多くの人が抵抗を示すカジノはもちろん収益の中心となる。カジノ以外の集客施設だけで収益を維持するのは難しいからだ。ここでうまく中長期的に一緒にIR効果を関西経済の発展につなげられるかどうかが非常に大事だ。上手にIRと付き合わないといけない。」
(聞き手 大阪経済部 川崎なつ美)