韓国江原ランドカジノと賭博中毒センターを視察して
元大阪府議会議員 堀田文一
この視察記は、視察直後に「堀田文一府政だより１８２号(２０１４年７月２０日)」に掲載したものです。
2014年6月、17カ所ある韓国カジノのうち、唯一、韓国民が入場できる江原ランドと、ギャンブル依存症の発生を予防・減少させるための賭博中毒センターを視察した。維新、自民などが提案した、カジノを核とする統合型リゾート推進法案、いわゆるカジノ解禁法案は、通常国会が終わり、継続審議となった。国民の反対は強いが、秋の臨時国会で成立する可能性は高い。カジノ反対の声は、いま、大きく広げるべき時だ。
橋下・松井氏が進める大阪へのカジノ誘致
2014年４月、５月に、世界の６つのカジノ運営会社の役員が大阪に来て、橋下徹市長や松井一郎知事に面会した。あるカジノ会社役員は大阪に５千億円、あるいは１兆円を投資するといって橋下市長を喜ばせた。
松井知事を訪問したカジノ事業者
- ４月７日 メルコクラウン会長兼ＣＥＯ(マカオ)
- ４月25日 ゲンティングループ会長(マレーシア)
- ５月12日 ラッシュ・ストリート・ゲーミング会長(米・シカゴ)
- ５月13日 ＭＧＭ会長兼ＣＥＯ(米・ラスベガス)
- ５月14日 シーザーズ社長(米・ラスベガス)
- ５月16日 ウィン社長(米・ラスベガス)
現代のカジノは、統合型リゾート(ＩＲ)と称し、ホテル、劇場、遊園地、ショッピング、グルメなどの盛り沢山の集客施設で、庶民を家族ぐるみで呼び寄せ、庶民からお金を巻き上げる。しかもカジノに通う一部の人をギャンブル依存症に追い込み、家庭に貧困と解体をもたらす。大阪へのカジノ誘致は、絶対に許せない。その思いで、私は2014年５月府議会で松井知事と対決した。
しかし松井知事は、統合型リゾートは国内外から多くの観光客に来ていただける魅力ある施設と真相をごまかし、カジノの最大の弊害であるギャンブル依存症は公営競技やパチンコによるものと言い切り、統合型リゾートとの関係には答えなかった。その上、私に世界の統合型リゾートを見に行けと言った。
カジノは世界各地にあるが、ラスベガスはカジノのトップの座をマカオに奪われ、マカオは旧ポルトガル植民地で中国の特別行政区、シンガポールは人口５４０万人の島国。参考にはなりにくい。
韓国民の客がはるかに多い
韓国にカジノは17カ所ある。16カ所は外国人専用で、２００９年の合計入場客数は１６８万人。残る一カ所の江原ランドは外国人・内国人がともに利用でき、入場客数は３０９万人にも達する。その96％が韓国民。カジノに通う人は、外国人より韓国民の方がはるかに多い。
しかも韓国民のうち60％は、ソウルから片道３時間かけて通う人。カジノは大都会との結びつきが深い。外国カジノ業者も、関西に２２００万人もの人口基盤があるからと、大阪に期待を寄せている。
そこで私は、大阪へのカジノ誘致に反対している仲間とともに、2014年６月22日と23日、韓国江原ランドカジノを視察した。
入口周辺に質屋、場内各所にＡＴＭ
屋が建ち並ぶ江原ランド周辺
江原ランドは韓国江原道旌善郡のスキーリゾートの中にある。
江原ランドの入り口周辺は、質屋が建ち並ぶ。貴金属から自動車、不動産まで、なんでも質にとって、金を貸してくれるそうだ。
質屋の前を過ぎて、ゲートを超えると、そこは別天地。広大なスキー場やゴルフ場といくつかの大型ホテルがあり、その一つ江原ランドホテルに泊まる。このホテルは客室４７７、カジノの他、プール、劇場、スパ、サウナなどを完備し、「家族型総合リゾート」と称している。
夜８時頃、カジノに入った。その日は、すでに３５００人の客があり、座る席がないかもしれないという。しかし、入ってみると、静かだった。日本のパチンコ店のような喧噪さはどこにもない。体育館のような大きなホールに、スロットマシーン、ルーレット、バカラ、ブラックジャックなどのゲーム機、ゲームテーブルが、所狭しと並んでいた。客は、誰もが一心不乱にゲーム機に向き合っていた。
スロットマシーン機は日本製だった
1000円を投入し、１回10円で賭ければ、延々と遊ぶことができる。投入資金と、１回の賭け金を大きくすれば、文字通り賭博になる。この機能的な機械は日本製だった。 私は、スロットマシーンをじっくり観察した。韓国の通貨はウォン、１万ウォンは約１０００円。以下、日本円で表示する。まず機械にお金を入れると投入資金がディスプレイに表示される。１回の掛け金は、10円、30円、50円、100円、500円、1000円・・・とあり、どれかを選択する。次にスタートボタンを押すとドラムは回転をはじめるが、勝手に止まる。何が当たりかは理解できなかったが、当たれば、投入資金残高が増え、外れたら残高は減る。ゲームを打ち切るボタンを押せば、残高を印字したチケットが出てくる。それは交換所で現金にすぐに換えられる。
賭博には資金がいる。持参した資金が底をつくと、カジノ場内の各所に設置されているＡＴＭから現金が出せる。ここのＡＴＭにはどんな制限がかけられているのか、確かめられなかったが、貯金をどんどん取り崩して、賭博に打ち込んで下さいということだ。
カジノ入り口付近のＡＴＭ
賭博中毒センターを政府が設置
江原ランドのカジノによって、深刻な社会問題がおきている。ランドに通ううちに、ギャンブル依存症にかかり、自分と家族の資産を食いつぶし、破産や自殺にいたるケースが絶えないことだ。そこで韓国政府は、１回500円の入場料、月に15回までの入場制限、２月続けて15回カジノに入ると、賭博中毒センターで指導を受けさせるなどのギャンブル依存症対策を講じている。
賭博中毒センターは政府が作り、カジノの収益で、カジノのすぐそばで運営されるギャンブル依存症の予防相談施設だ。２０１３年の場合、９６２７人がセンターを訪れている。10年前４２３人の23倍だ。
賭博中毒センターは、重症者には病院を紹介するが、重症でない人にはギャンブル中毒の恐ろしさを書いた漫画やパンフレットを提供し、啓発活動を行っている。
私は、賭博中毒センターの事務局長に、相談に来た人の追跡調査について尋ねたが、「自分を中毒と認めない人が多く、追跡調査は大半が拒否される。地域再生のために新しくカジノを作るのは、慎重さが必要であり、徹底的な準備が必要」と語った。
現在、大阪で計画されているカジノを核とする統合型リゾートの主なターゲットは、江原ランドのように、決して外国人観光客ではない。
日本では成人男性の９・６％、成人女性の１・６％が、過去あるいは現在、ギャンブル依存症にかかっているという調査結果が公表されている。その大半は、パチンコによるものだが、日本にカジノが開設されたら、それらの人がカジノに殺到し、ギャンブル依存症を深め、崩壊する家庭が増え、日本の富が外国カジノ業者に持ち去られることになる。
カジノの大阪進出は絶対に認められない。
